レールアウト~婚約者に裏切られて彼の弟(生徒)にせまられます~番外編追加
父に逆らうことの無い母は、もちろん私を庇うことはない。静かに見ているだけ。
否定されるのなら、はじめから伝えなきゃいい。傷付く前に、あきらめて何も言わなければ良い。
積もり積もる、その不満は少しずつ膨らんでいく。
親の言う通りにただ進めば文句は言われない。怒られはしない。
決して認めても貰えることもないけど。
私はただの駒なんだ。父親の人生の一部で、都合のいいように動かされているだけの人形。
──俺は良いと思うけどな、幼稚園の先生の夢
成央さんが、後でこっそりと声をかけてくれた。
私の夢ではなかったけど。
現実は父の言う通り公務員の道に進んでしまったけど。
彼にハンカチを渡されて、はじめて泣きそうになっていたことに気が付いた。
──志保ちゃんならなれるよ
欲しかった言葉をくれた。誰も言ってくれなかった言葉。母も、もちろん父も。
向けられるこの人の優しい笑顔が、私だけのものになればいいのに。
神様、お願いします。
他には何も望みません。
だから、彼の隣にずっといさせて下さい。
決められたレールの上を歩く私にとって、成央さんは唯一の希望だった。