真・T☆LOVE 〜滅亡の時〜
アイが手配した設備が、この町で一番大きな病院に運び込まれた。

費用は、大半をラブが持ったが、あの医師も、自分の家を売り、そのお金を届けた。

「私には病院が家みたいなもんだから、何とかなるさ」

そう言って笑った。


ララが、自分の目と引き換えに手にしたお金には、どうしても手を付けられず、サバに預けた。



~手術室~

術着を纏《まと》ったラブが入って来る。

絶望的な貧しい子供の手術に、名乗りを上げる医師はいなかったのである。


「よろしくお願いします」

心臓外科医のベクター医師は、この時のことを未だに信じられないでいる。

ラブは確かに、国際医師免許を持ってはいた。

切り取った筋肉に、人工の筋肉組織を接合する技術は、今や多くのスポーツ選手が実施している。

しかし、主要な筋肉組織の一つ一つを繋ぎ合わせて行く手術には、大変な時間と技術が必要であった。

それを心臓に施すと言うのである。

心臓を止めていられる時間は長くて五分。
不可能な時間であった。

「心筋移植手術を始めます。ベクター医師、静脈と動脈のバイパスをお願いします。恐らく心停止は三分がリミット。ではハリス医師、お願いします」

「ほんとにやるのか?痛みで気を失うぞ」

ハリス医師は、麻酔や神経外科の専門医であった。

ラブはエプロンを掛けた様な状態で、背中は裸であった。

その細い背骨へと、ハリスはTERRAの技術が生んだ、電磁ソナー繊維付きの太い針を突き刺していった。

普通の人間であれば、激痛で立っていられないはずである。

予め脳内麻酔を施したロブの神経には、この処置がされていた。

人間の脳は全ての細胞を網羅している。

人口神経ケーブルを繋いでロブへ入り込み、心筋組織を正確に把握するのである。

無論ラブにしか出来ない技である。

ベクター医師の処置が終わり、心停止に移る。
躊躇《ちゅうちょ》している時間はない。

「心停…始めます。3.2.1.停止」

握り閉めていた拳を開き、切除された心筋に、肉眼では見えない程細い数百本の繊維を接合していく。

誰もが目を疑う早さであった。

ラブは、背中から全身に走る激痛に、脳への信号が紛れないよう集中する。

余り汗を流さない体質のラブの額から、汗が流れていた。

それを拭いた看護婦のことも、手術が終わったことでさえ、ラブは気付かないまま、気を失った。
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