sweets 〜 焼き菓子が結ぶ恋物語 〜
「ご主人もこちらにどうぞ」

「え? あ、はい」


看護師さんに促され、友哉さんも診察室に入って説明を聞いた。


「つかんだ場所が火花の出ているプラグ部分ではなかったのが幸いでした。もし火花が出ている部分だったら、感電していたかもしれません」

「感電・・・」

「火傷したところ、いまは結構腫れていますが、深部には達していないようなので、2週間もすればだいぶ良くなると思います」

「はい・・・」

「ただ、しばらくは常に軟膏で患部を覆わなければいけないので・・・調理はできません」


私の格好を見て、医師はひと言付け加えた。


「2週間・・・」

「最初の1週間は1日おきに通院してください。経過を診ますので」

「はい・・・」

「じゃあ、看護師に軟膏の塗り方やガーゼの使い方を聞いてください。あ、ひとりじゃ包帯巻けないので、ご主人も一緒に説明を聞いてもらった方がいいかな」

「分かりました」


特に反論もせず、友哉さんも一緒に説明を聞いていた。
その後、看護師さんの指示通りに友哉さんが包帯を巻いてくれた。
ひと通り治療を終え、ふたりで待合室に出た。


「あ、あのっ」

「会計してくるから、座って待ってろ」

「・・・はい」


あ・・・保険証、持ってきてない。
気が動転していて、スマホすら持たずに来てしまった。
薬代もあるし、実費精算したらどれだけ掛かるんだろう・・・。


「少しは、落ち着いたのか?」


戻ってきた友哉さんが、隣の椅子にドスンと座った。


「はい・・・」

「・・・良かったな。見た目よりもひどくなくて」


それっきり、何も言わなかった。

ストレートに怒られるか、ネチネチ嫌味を言われるかのどちらかだと思っていたから、少しホッとした。
でも、ホッとした途端に大事なことを思い出した。


「どうしよう・・・所長さんにお茶会のお菓子を届けなきゃいけなかったのに」

「おまえなー、こんな時に何考えて・・・いや、俺が後で届けておくよ」

「え?」

「イベント、明日に延期になったんだ。それを伝えようとして、所長はおまえに電話したらしい」

「そうだったんだ・・・」

「そしたら、二葉ちゃんに何か大変なことが起こってるって事務所で騒いでたから」

「それで来てくれたの?」

「・・・どうしてもって所長に頼まれて」


仕方なく・・・か。それなのにご主人扱いされて、支払いまで。
私は立ち上がって、友哉さんに頭を下げた。


「迷惑かけて、本当にごめんなさい。お金、すぐに振り込むから口座番号教えてください」

「いいよ。良くなってからで」

「でも・・・」

「それより、これから2週間どうするつもりだ? いろいろ注文あるんだろ?」


そうだった。考えなきゃいけないことがたくさんある・・・。
思わずため息をついた私を見て、友哉さんが言った。


「とりあえず、昼メシ食うか・・・ハラ、減ってる?」

「・・・そういえば、今日は注文が多かったから、朝から何も食べてない・・・」

「しょうがないヤツだな。ほら、メシ行くぞ」


先に椅子から立ち上がった友哉さんは、私の髪の毛をクシャっと崩してから、さっさと駐車場に向かった。

今の・・・何だろ。
なんだか少し、気持ちが動いた。


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