sweets 〜 焼き菓子が結ぶ恋物語 〜
『またあの時みたいに、ひとりで全部背負う気か!』


え? 今なんて?

私は身体を硬くした。
友哉さんは何か知っているの?

何も言えずにいると、友哉さんは私から離れて助手席のドアを開けた。


「早く乗れ。ずっとそこに立ってる気か?」

「あの・・・」

「何だ?」

「・・・いえ、何も・・・」


私を助手席に乗せてドアを閉め、車を走らせた。


「そういえば、施設に持って行く分はもう準備してあるんだろ?」

「あ、うん。あとは最後に焼き上がったフィナンシェを箱に入れるだけ」

「じゃあ、それから片付けるか」


何事も無かったように、友哉さんは私に話しかける。
私も、あの一言をどう受け止めたら良いのか分からず、ひとまずスルーした。


「これで全部?」

「はい」

「じゃ、持って行くか。一緒に来る?」

「あ・・・うん。あの、着替えするから待っててほしい」

「いいよ」


厨房に寄り、お茶会用のお菓子を車に積み込んだ。
所長さんにもお礼を言わないと・・・そう考えて、一緒に行くことにした。


「二葉ちゃん!!」


私を見かけて、所長さんが血相を変えて事務所から出てきた。


「ご心配お掛けして、すみませんでした」

「そんなのいいのよ。それより大丈夫なの? 火傷はひどいの?」

「良くなるまで、2週間かかるらしいよ」


私の代わりに友哉さんが答える。


「そうなのね・・・その間、どうするの?」

「どうするって、仕事ですか?」

「仕事もそうだけど、その手じゃ食事の用意も大変じゃないの」

「そう・・・ですけど」


チラッと友哉さんの顔を見た。
ついさっき、ひとりで全部やると言って怒られたばかりだ。


「仕事は、俺が手伝おうかと」

「友哉さん・・・本気で言ってたの?」

「さっきもそう言ったろ」


ふふっ、と所長さんが笑っている。


「ふたりとも、いつの間にそんなに仲良くなったの?」

「仲良くなんてなってないです! そもそも、友哉さんのことよく知らないし・・・」


所長さんが、友哉さんの方を見て言った。


「まだ二葉ちゃんには何も?」


友哉さんがうなずいた。


「じゃあ、私の口からは詳しく言えないけど・・・二葉ちゃん」

「はい?」

「友哉に手伝ってもらうといいわ」

「え?」


いま、友哉・・・って呼び捨てにした?
どういうこと?


「あの・・・私さっき、友哉さんにも同じ質問したんですけど・・・所長さん、何者ですか?」


キョトンとした顔をしたかと思うと、友哉さんと同じようにアハハハと笑った。
このふたり・・・なんだか似てる・・・。


「もしかして、ふたりは・・・」

「所長は俺の母親だよ」


友哉さんが答えてくれた。


「まぁ、他にもいろいろあるんだけど、それは友哉に聞くといいわ」

「いろいろ・・・」


それは、まさか『あの時』のことも含まれているんだろうか・・・。
ふたりは・・・所長さんと友哉さんは、まさかあのパティスリーでの過去を知っているの!?

でもどうして・・・何の接点も無いはずなのに。


「ねぇ二葉ちゃん、今夜うちへいらっしゃいよ」

「え?」

「いいわよね? 友哉」

「別に構わないけど」

「そんな・・・友哉さんにご迷惑おかけしてばかりなのに」

「でも、二葉ちゃん知りたいでしょう? 私たちが何者なのか」


そう言って所長さんは、いたずらっぽく笑って見せた。
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