sweets 〜 焼き菓子が結ぶ恋物語 〜
「どうした、眠れないのか?」

「・・・うん。今日あったこと、いろいろ思い出しちゃって」


招かれるままに所長さんのお宅で晩ごはんをいただき、友哉さんに薬や包帯を手伝ってもらった。

疲れただろうからと、所長さんに早く寝ることを勧められたものの、布団に入っても眠れず、水を飲もうとリビングを訪れた。


「上着、取ってこいよ」

「え?」

「ドライブ・・・行かないか?」

「あ、うん。行こうかな」


上着を持ってリビングに戻ると、友哉さんの姿はもう見えなくて、代わりにガレージからエンジン音が聞こえた。


「おまたせしました」


友哉さんは私に気付くと、車を降りて助手席側に回り、ドアを開けてくれた。


「右手は使えるから、大丈夫なのに」

「いいから乗れよ」


私が火傷してから、毎回ドアの開け閉めをしてくれる。

この人・・・。
会話はかなり素っ気ない感じだけれど、実は優しい人なんだろうな。

ツンデレとは、ちょっと違うか・・・。
『ツン』はあるけど、『デレ』が無いものね。
ふふ。


「何笑ってんだ?」

「ナイショ」

「変なヤツ・・・なぁ、高速乗ってもいいか? 今の時間だと空いてるから気持ちいい」

「うん」


友哉さんがグッとアクセルを踏んで、高速道路に出た。


「うわぁ・・・」


高速の道路照明が一直線に並んでいて、すごく綺麗に見えた。


「ちょっとだけなら、窓開けてもいいぞ。あんまり開けると危ないから」

「どのくらい?」

「じゃあ、俺が開ける」


スーッと窓が開いて、外の風が入ってきた。


「気持ちいいね」

「少しは、気が晴れたか?」

「・・・それは・・・どうかな」


明日からのことは、何ひとつ解決していない。
このまま、朝が来なければいいのにと思った。


「コーヒーでも飲むか?」

「・・・うん」


近くのパーキングに寄り、友哉さんはコーヒーをふたつ買って戻ってきた。
降りるか?と、助手席のドアを開けてくれた。


「ありがとう」

「コーヒー、ミルクだけで良かったよな?」


はい、とコーヒーを渡された。

どうして、ミルクだけだと知っているんだろう。
一緒にコーヒーを飲む機会なんて、無かったはずだけど・・・。


「どうした?」

「・・・ミルクだけって。一緒にコーヒー飲んだことあったかなと思って」

「・・・」

「無い・・・よね?」


友哉さんは、私から視線を外した。


「ね、所長さんと友哉さんは、私とどんな繋がりがあるの? ふたりとも、私のことを知ってるような感じだけど」


帰りの車の中が気まずくなるような気がしたけれど、思い切って口に出した。


「お昼も・・・『またあの時みたいに』って言ったよね? どうして?」

「それは・・・」


何かを言おうとしつつも、言葉を探しているのか、友哉さんから続きは出てこなかった。


「ごめん。何から話せばいいか、整理がつかなくて」


友哉さんの困った顔を見つつも、夜風が冷たくなってきて、思わず身震いした。


「なんだか寒くなってきたね」


そう言った私を、ふわ・・・と友哉さんが包んでくれた。


「まだ寒いか?」

「寒くないけど、でも・・・」

「でも?」


あまりに近くて、どんどん心臓の鼓動が早くなるのを感じた。
そして鼓動の早さだけじゃなく、友哉さんに対する自分の気持ちの変化にも、気付いていた。
< 8 / 32 >

この作品をシェア

pagetop