Mazzo d'amore
テレビや映画でキスシーンは見た事あるが自分の親や他人のキスでさえ生で一度も見た事がないのにまさかの相手のキスに強い衝撃を受けた。

キスは1秒ぐらいの軽いフレンチキスだったが私達の胸をエグるには十分な時間だった。

「菜音く…ん…」

「だい…じょうぶ?」

私と沙羅は菜音くんを心配し見たが呆然と遠くを眺めているように見えた。

ポトッ

お茶を移し終えた空のペットボトルが菜音くんの手から力なく地面に落ち、コロコロと転がり出し道路に出そうになったので私は慌てて拾った。

空の転がるペットボトルを拾い上げ、顔を再び美容院の方に戻すと私達に気付いた菜音くんのお母さんの驚き見開いた目と合った。

普段、ニコニコで優しい菜音くんのお母さん。

目も垂れ目で可愛いお目目。

しかし驚き見開いたその目はあまりにも衝撃的で私は怖いとさえ思ってしまった。

「ひぃっ……」

思わず声を出し、尻込みしてしまった。

そしてその車は決してこっちに来る事なくお店のある方面へ走り去って行った。

夏休みに入って間もなくの出来事にただただ私は茫然自失となった。

(なんで?なんで?)

今まで私の目に写っていた菜音くんのお母さんのニコニコしたご主人との仲睦まじい姿は幻だったのだろうか。

嘘で塗り固められた偽りの姿をずっと見せられていたのだろうか。

言葉にならないし、考えれば考える程ムカつく。

私でさえショックを受けてるので菜音くんの傷は計り知れなかったと思う。

3人帰りは無言だった。

「じゃあね」

「うん、バイバイ」

正直、菜音くんはお家に帰るの嫌だったと思う。

せっかく始まった楽しい夏休みが最悪な日となりお母さんとどんな顔をしてどんな会話して良いかわからないと思う。

「大丈夫かな」

「まあ、でも私達は今日の出来事は親にも言わないでいよ」

「そうだね…何もなかった事になれば良いね」

この言葉は、菜音くんのお母さんを庇うわけではなく菜音くんが傷つかないよう配慮して出た言葉だった。
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