生贄は囚われの愛を乞う~棄てられ令嬢と狼将軍~
レナは領主の子どもではない。
かつては孤児院で暮らしていたみなしごの一人だった。
幼い頃は確かに両親がいたが、気が付いた時にはいなかった。捨てられたのか、死んだのか。家族を恋しいと思った記憶がないわけではなかったが、孤児院には似たような境遇の子ども達が居て寂しいと思う間はなかった。
特に、同じころに孤児院にいた二つ年上の幼馴染はいつもレナを励ましてくれて、いつか大人になった時も彼と一緒に生きてくのだと信じていたくらいだ。
そんな幼い思いは、大人の都合で簡単に踏みにじられてしまう。
『その娘を渡さなければ、孤児院への支援は打ち切りだ』
突然現れた領主は、青ざめる孤児院の院長にそう告げた。
成長するにつれて美しさを増すレナの噂を聞きつけ、自分の道具になる養女にしたいとやってきた領主。
彼は自らの懐を肥やす事ばかりに熱心で、領民の生活の事など何も考えていないような存在。
そんな相手に子供を差し出す事を躊躇っていた院長だったが、支援の打ち切りという最終手段を取られては断りようがなかったのだろう。
救いを求めるような顔をして、幼いレナを見つめていた。
何もかもままならない、と思いながらレナは孤児院の子ども達への手厚い支援を条件に、さながら生贄のように養女となる道を選んだ。
ともすれば虐待同然の厳しい教育に、レナはへこたれなかった。
もし自分が逆らえば、孤児院の彼らが窮地に立たされてしまうと、必死だった。
あの場所だけは守りかたった。