生贄は囚われの愛を乞う~棄てられ令嬢と狼将軍~

「レナ、喜ぶがいい。春祝祭でお前のお披露目が決まった。必ずや王太子をその魅力で籠絡するのだぞ」

「わかりました、おとうさま」



 下種に笑う義父を見つめながら、レナは眉ひとつ動かさずに静かな返事を返す。

 透き通るようなプラチナブロンドに蕩けたはちみつ色の瞳。小柄ながらも自信に満ちたようにすっと背を伸ばし立っているレナは、領主である義父の自慢の娘《人形》であった。



「今日までお前を大事に育ててやったのはこのためだ。私の期待にしっかりと応えろ」



 唇を歪めながら、自らの欲望を隠そうともしないその表情は醜悪そのもの。

 気持ち悪い、と吐き捨てそうになるのを必死でこらえながらレナは深く頭を下げ、義父の部屋を出た。



「……本当に私を王太子に差し出すつもりなのね。うまくいくと思っているのかしら」



 重い気持ちを引きずるように廊下を歩きながらレナは深いため息を零す。

 特に力のない領主の娘。しかも養女である自分が王太子妃になれるなどと夢見ている養父は愚かだと思いながらも、レナはそれを口にはできない立場だった。

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