『お願いだから側にいて』~寂しいと言えない少女と孤独な救命医の出会い~
俺自身平凡な家庭に育った覚えはない。
小学校に上がる前に母さんは亡くなってしまったし、父さんは測量技師としての技術があったために仕事に困ることはなかったが、お酒が好きでいつも酔っぱらっていた。
昔はそんなに飲んでいなかったって小さいころに母さんから聞かされたことがあるから、最愛の妻を失ったことで酒に溺れていったのかもしれない。

それでも、俺が小学生の間は父さんが家事をして食わせてくれた。
食事はほぼスーパーの総菜だったけれど、毎日仕事にも行きながら掃除も洗濯もしてくれた。
けれど、俺が中学に入った頃から父さんの様子が変わっていった。
週に一度一週間分の食費を俺に渡すと、あとは知らんふり。まったく家事をしなくなったし、俺と話すこともなくなった。そのうちに仕事も休みがちになり、毎日家で酒を飲んで過ごすようになった。
酔っぱらった父さんはいつも母さんの名前を呼びながら泣いた。
俺はその姿を見ながら、父さんは病んでいるんだと気づいていた。
酒のせいで暴れたり、酔っぱらって意識が混沌とする父さんを何度も救急病院へ連れて行った。
そのときに見た救命医たちにあこがれて、俺は医師の道を志したんだ。

俺が中学に通う3年間はそんな暮らしが続いただろうか、高校入学したのと同時に父さんは病院へ入院した。

それから10年以上、俺は一人で生きてきた。
父さんはもともと天涯孤独だったし、母さんは父さんとの結婚を反対されて家を出てしまっていたために、俺には頼る親戚もいない。
少なくと、3年前まではそう思っていた。

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