『お願いだから側にいて』~寂しいと言えない少女と孤独な救命医の出会い~
ブブブ。
携帯の着信。

「もしもし」

「ああ、私だ」
「はい」

時刻は朝の6時。
いつものことだが相手の都合を考えない電話の相手は、俺のおじさん。

「今日は仕事かい?」
「ええ。日勤ですが、土曜日なので遅くなるかもしれません」
「そうか。家内が食事に来ないかって言うんだが、どうだろう?」
「ありがとうございます。でも、何時になるかわかりませんし、」
仕事にかこつけてやんわり断ろうとしたのに、
「山本君には私から言っておこう」
「ちょっ、ちょっと待ってください」
おじさんの口からいきなり救命部長の名前が出て慌てた。

「わかりました。7時には伺います。ですから、救命部長には言っていただかなくて結構です」
「そうか、わかった。じゃあ、待っているからね」
「はい」

ったく、この人はどうしてこうも押しが強いんだか。
医師としての先輩でもあり病院の副院長でもあるおじさんは、何かあればすぐに俺の上司である救命科の部長に告げ口をしてしまう。
そんなことをされれば俺の立場がないなんてこれっぽちも思っていないんだから、困ってしまう。

はあー。
ついため息が漏れてしまった。

3年前、医学部を卒業して研修先をどこにしようかと迷っていた時、いきなり現れた俺のおじさん。
それまで母にお兄さんがいることも実家がどこにあるのかさえ聞かされていなかったから、正直驚いた。

「うちの病院で研修医にならないか?」
そう言って差し出された名刺には俺でも知っている地方病院の名前と、副院長の肩書がかかれていた。
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