若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
 楽しい時間はあっという間に過ぎる。
 時刻は二十一時半。寂しいけど帰らなくてはいけない。

「それじゃあ、また明日。おやすみなさい」

 帰り際、そう言って玄関で抱きしめる。ハグはすると言ってあるから、いいよね? て言うか、ダメと言われても今日だけで、もう何回ハグしたか。
 本当はキスしたい。唇がダメならほっぺにでもおでこにでもいいから、もっと触れたいと思う。ただ、まだ早いかなと思って自重する。
 なのに、ハグをして数秒後、なんと響子さんが僕を抱きしめ返してくれた! あまりのことに、理性がぶっ飛びそうになる。
 響子さん、ありがとう! ねえ、少しは僕のこと恋人として認めてくれた?
 本当に嬉しい。嬉しすぎて逆にマズイ。
 ここで自分を見失ったら、これまでの努力が水の泡になるかも知れない。ダメだ、頑張れ、自分。

「おやすみなさい」

 落ち着いた響子さんの声を聞き、ゆっくりと理性が戻ってくる。
 キスしたい欲求を、押し倒したい欲求を全力で閉じ込めて、これくらいは許してと響子さんの頭をなでさせて頂いた。
 響子さん、大好きです。
 心の中でつぶやいて、それから名残惜しすぎると思いながら腕の中の響子さんを解放した。 
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