若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
「なになに、彼氏できたとか?」

「んーどうだろう」

 遅刻するよと歩き出しながら、またおしゃべり。

「や、待ってよ。どうだろうって、何!? 響子、彼氏作るの何年ぶりよ。えっと、五年は経ってるよね?」

 そうだっけ?

「でも、まだ本格的にお付き合い始めた訳じゃないし」

「……本格的じゃないお付き合いは始めたって、言ってる?」

 そうなるんだよね?

「取りあえず、一ヶ月お試しって」

「お試し!」

 そんな驚くことかな。
 ……まあ、確かに彼氏なんて面倒くさいもん二度と作らないし結婚も絶対にしない、って言った記憶はある。そう。弥生には元カレと別れた時、いっぱい愚痴を聞いてもらった気がする。

「ねえねえ、どんな人?」

「どんな? お……優しいよ」

 危ない危ない。うっかり、美味しいよと言いそうになった。
 うん。美味しい人じゃなくて、美味しいご飯作ってくれる優しい人。

「いいねいいね。仕事は?」

「……え?」

 いやさすがに、結婚詐欺師らしいとは言えない。困った。なんて答えよう。

「響子?」

 言えないような仕事なの?って感じで弥生が眉根を寄せる。
 弥生は相手の職業とか年収に結構こだわる。仕事辞める気はないらしいけど、もしもの時も生活レベルは落としたくないそうだ。
 逆に私は今の生活に満足している。あの安アパートと呼び出しの時だけ使う軽自動車。稼いだお金を使う時間もないくらい慌ただしい毎日で、預金残高だってもう何年も確認していない。
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