若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
 いや、ダメだ。冷静になれ自分。不審者になるな疑われるな。
 第一印象、大事だろ?
 多分これは過労だ。父さんもそういう時、あっただろ? 救急外来のあるような大きな病院の若手の医師は大変だって、僕はよく知ってるだろ。

「とにかく、座って」

 目の前の車の後部座席に座らせる。

「過労……かな? 無理しないでね」

 そうだ。こんなものだけど、ないよりマシかも。
 と鞄を漁る。取引先からもらった栄養ドリンク。一本飲んだけど味も悪くなかった。もう一本は疲れた時に試そうと思って持ち歩いていた。

「良かったら飲んで。試供品で申し訳ないけど、胃に負担が少なくて空腹でも飲めて、身体に必要なものが色々詰まってるらしいですよ」

 彼女はあまり考えずに受け取ってくれた。良かった。もらいものだけど、取引先渾身の一品、悪くはないと思う。

「じゃあ、真鍋さん、後はよろしくね」

 真鍋さんがドアを閉めたのを見てから、

「この方、未来の私の奥さんだと思って、大切にして」

「え? 社長の、ですか!?」

 初対面だしまだろくに話していないけど、出会えたのだからもう離せない。

「うん。必ず家まで送り届けてね。で、住所、控えておいて」

「……はい。かしこまりました」

 色々と疑問に思っただろうに。それでも真鍋さんはプロらしく何も言わず、静かに一礼した。

「じゃあ、くれぐれもよろしくお願いします」

 車の中の彼女に目をやると、こめかみに手を当てグリグリと動かしていた。頭痛がひどいのかも知れない。
 後ろ髪を引かれながら、僕は取引先への移動を開始した。コンビニに寄る時間はなくなったが別に良い。早めに出て来ていたので、約束の時間には十分間に合う。
 今日の予定は……。歩きながら思い起こして愕然とする。今日は夕方まで空き時間がゼロだった。ずらせそうな予定もない。
 十七時、最後の会議が終わったらすぐ帰ろう。それまでに何をするか何をしなきゃいけないかをしっかりと計画しておかなくては。
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