若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
「ああ、そんなのお互い様なので気にすることないですよ」

 これをダシにもう少し話せるか?
 連絡先を知りたい。もっと話したい。
 脳内で身悶えしていると、呼び戻した車が歩道に横付けされた。

「社長。お待たせしました」

「ごめんね。呼び付けて」

「いえ。いつでもお呼びください」

 取引先の近所まで車で来て、すぐそこで下ろしてもらった。僕の用事が終わるまで、車は近所のパーキングで待機予定。時間的にパーキングに着く前に僕からの電話を受けて、ぐるっと回って戻ってきてくれたのだと思う。
 ありがたい。クイックレスポンスに感謝だ。

「車、乗ってください。私はこの後用事があって送っていけないのだけど彼に家まで送ってもらうから。プロの運転手さんだし安心して任せて大丈夫」

 大概怪しい人物だろうと思いつつ、運転手の真鍋さんに送ってもらう提案をする。

「いえ、そんなとんでもない」

 彼女は断ろうとするが、真鍋さんはサッと車を降りて来て後部座席のドアを開けてくれた。

「真鍋さん、この方を家まで送ってあげて」

「かしこまりました」

 ビシッとスーツ着て手袋はめてる本職の運転手さん。ほら、怪しくないよ。

「どうぞ、お乗りください」

「あ、この方、体調が良くないから気を付けてあげて」

「かしこまりました」

「え、だから……」

 電車で帰ると言おうとする彼女をどんどん追い詰めていく。

「あ、そうか」

 と彼女の戸惑いに気づかないふりをして名刺を一枚取り出し、

「牧村商事の牧村と申します」

 と差し出した。
 半ば反射的に受け取ってくれが彼女は、マジマジと僕の名刺を見る。
 何を考えているのか読み取ろうとしていると彼女の表情がまた苦痛に歪む。

「大丈夫ですか?」

 心配で心配でたまらない。大丈夫だろうか? このまま病院に連れて行った方が良いのだろうか?
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