若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
「響子さん?」

 そう言えば、いつの間にやら名前呼びしていた。

「あ、すみません」

 馴れ馴れしすぎたかと思ったけど、響子さんは気にしていなさそうだ。ならいい。ちょうど良いのでこのまま名前で呼ばせてもらおう。

「……ヘルパーさんじゃなくて、僕と付き合いましょう?」

「えー」

 ムチャクチャ嫌そうな顔をされる。ヘルパーさんの話なんてするんじゃなかった。いやでも言ってしまったのだから、後の祭りだ。

「一ヶ月! まずは一ヶ月お試しで付き合ってください」

 真顔で身を乗り出して提案する。

「……一ヶ月?」

「はい。僕はあなたの仕事の邪魔は決してしません。父が医者だって言ったでしょう? それがどれほど大切な仕事か理解しています。後、家事も掃除もなんなら僕がしますから」

「え、ホントに?」

 ヘルパーさん情報を知ったときより興味を持ってくれたことが嬉しくて、自然と笑顔になる。

「昨日も今日も出来合いのお粥なんか持ってきちゃいましたが、実は僕、料理もできるんですよ」

「本当に?」

「海外では一人暮らしでしたし、自分で作ってました。家事全般もあちらでは男性がするのは普通ですし」

 嘘ではない。得意とは言わないが、割となんでも器用にこなす方だし料理もそれなりに作れる。

「へえー」

 響子さんのいいなぁという心の声が聞こえてきそうだ。

「良かったら、今日の昼と夜に手料理食べません?」

「え?」

「多分ですが、響子さん、栄養不良ですよね。少し元気の出るものを食べた方が良いと思います」

「……いえ、忙しくてちょっと丸一日何も食べてなかっただけで、普段はちゃんと食べてるんですよ」

「丸一日!?」

 ただでさえ激務のはずなのに、丸一日も何も食べていなかったのか! それは貧血も起こすだろうし立ちくらみも起こすだろう。栄養が足りないレベルじゃなかった。栄養ゼロで働いていたのか!?
 それはもう間違いなく発熱は身体からの『休め』のサインだ。
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