若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
12.
「あれ? 車、この前のと違うんですね」

 運転手さんに送ってもらった日とは車が違う。
 こっちも国産高級車だけど。

「これは自分で運転する用の車なので」

 そう言いながら、「どうぞ」と助手席のドアを開けてくれる。とてもスマートな身のこなしに、こういう扱いに慣れていない私は少々照れる。

「ありがとうございます。お邪魔します」

 そう言いながら乗り込むと、今度はドアを閉めてくれる。
 ホント、慣れてるなぁ~。
 なんて言うか、この三日で何度も家に上げてるから大丈夫って分かってるけど、本当ならよく知らない人の車に乗るってかなり危ないよね。
 もう少し警戒しなきゃいけないのかな、私。
 ふとそんなことを思う。

「どうしました?」

「いえ、手慣れてるなと思いまして」

「え?」

「えーと、エスコートって言うんでしたっけね。車のドア開けてもらったりとか、普段ないんで」

「ああ。何年か海外にいたので」

 慌てることもなく、牧村さんはにこっと笑った。
 なるほど。そういう設定か。確かに、向こうはレディーファーストとか言うよね。あれって本当にそうなんだろうか? 海外なんて数えるほどしか行ったことないし、正直よく分からない。

「なるほどです」

 無難に答えると、スーッと車は動き出した。

「このまま、家までお送りしますね」

「お世話かけます」

 道中は他愛ない話をした。

「今日はお仕事いかがでした?」

「運良く急患も入らなかったので、のんびり仕事させてもらいました。入院患者の様子を見に行ったり、書類片付けたりとか」

「それは良かった」
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