若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする
 だけど、響子さんは、

「とんでもないです。お雑炊のためです」

 と言い、僕が土鍋に火を入れながらネギを刻み、ボールに割り入れた卵をかき混ぜるのを、いかにも待ち遠しそうに覗き込んでくる。そんな姿を見ていたら、まったく問題ない気がしてきた。

「醤油ベースで味付けてしまって大丈夫ですか?」

 料理をする隣に響子さんがいる喜びを全身で感じながら、努めて冷静にそう聞くと、

「大丈夫です」

 と、響子さんがなんと「どうぞ」と醤油を手渡してくれた。
 嬉しさのあまり抱きしめたくなったけど、自重する。ここで警戒されては元の木阿弥だ。

 あまりの幸福感で、途中で何を作っているのか分からなくなりかけたけど、ここで味付けを失敗させて失望されたりしたら大変だ。味見をしてみたけど問題はなさそうだ。

「お待たせしました。できましたよ」

 そう言うと、響子さんは昨日洗って干しておいてとんすいを持ってきてくれた。
 昨日と同じようにテーブルに土鍋を持って行って、そこで食べようかと思っていたけど、朝の慌ただしい時間だし、キッチンでつけ分けて行き、足りなければおかわりをするというのでも良いかもしれない。
 いや、つまり、響子さんが持ってきてくれたとんすいを受け取って使うというのが、僕にとって何より大切だということだ。


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