若社長は面倒くさがりやの彼女に恋をする

「それ以上は、我慢するので」

　だけど、うん、ハグだけで当面は我慢だ。怖がらせて嫌われて、お試しで終わりと言われたら最悪だから。

「すみません、気が逸ってしまいました」

「あ、いえ、その……慣れてなくて、すみません」

　大丈夫です。どんな響子さんでも大好きです。

「待ちますね」

「え？」

「響子さんが慣れてくれるまで、待つので大丈夫です」

　二十九歳、これだけ魅力的な女性だ。
　知り合って数日のよく知らない男だから慌てているのか、本当に男性経験が少ないのかは分からない。だけど、良いのだ。過去に何があってもなくても、最後に響子さんの心を掴むのが僕ならそれで良い。
　響子さんがもし既婚者でも奪うことしか考えられなかったくらい、過去は関係なく、今の響子さんが大好きです。

　そっと、響子さんを抱きしめる。
　今度はいきなりではなく、髪の毛に優しく触れ、背中に手を添えてゆっくりと。
　このぬくもりが腕の中にあることを神仏に感謝したくなった。ちなみにうちは仏教で家には仏壇があるし、高校生で留学した時のホストファミリーには週末毎に教会に連れて行かれた。どちらもろくに信じていなかったけど、今は、響子さんに出会わせてくれたこの運命に感謝の気持ちしかなかった。
　本当にありがとう！

　響子さんが腕の中で戸惑っているのを感じ、そっと腕を緩める。

「明後日の夜、また来てもいいですか？」

　さっきのお付き合い申し込みの流れでは話したけど、まだ来ても良いとは言ってもらっていない。

「ここに？」

「はい。早めに仕事を終えて、何か作りに来ます」

　病院へのお迎えも、しても良いならさせて欲しい。ただ、そっちは仕事の予定を確認しないと確約はできない。だけど、今日と同じ十九時前にこの部屋に来るのなら普通に仕事をしてからでも大丈夫だ。

「いいんですか？」

「もちろんです。簡単なものしか作れませんが。安心して餌付けされてください」

　そう言って笑いかけると、響子さんは複雑そうな表情を浮かべた後、仕方ないなという感じでふわっと笑みを浮かべてくれた。