高嶺の社長と恋の真似事―甘い一夜だけでは満たされない―
「たった一回のことで、私、臆病になっちゃったみたいで……傷つくのが怖いんだって、信じるのが怖いんだって、気付きました」
もしかしたらまた私の勘違いで傷つくかもしれない。
もしかしたら好きなんて嘘かもしれない。嘘じゃなくても、いずれ心変わりをするかもしれない。
考えられる不安要素なんて探せばいくらでも見つかって、足が踏み出せない。
なんとも思っていない相手からなら流せることでも、好きな人が相手ならしっかり傷ついてしまうのを知っているから。
「いつか、上条さんに私の方が恋愛経験は豊富だなんて言いましたけど、やっぱりそれも私の勘違いでした。私はもう、恋愛できないのかもしれません」
苦笑いを浮かべて顔を上げる。
上条さんはそんな私をじっと見ていた。
そして、しばらくそうしたあと納得がいったようにひとつため息をついた。
「おまえの気持ちはわかった。どうせ今、俺にそうしているみたいに馬鹿みたいにまっすぐ戸川を想ってたんだろ。おまえが気持ちを否定されて、それでも一緒にいるために色んなものを胸の中にしまいこんで苦しくなったっていうのもわかる。同じ思いをしないために自己防衛したい気持ちもわかる」
アイスコーヒーの入ったグラスをテーブルに置いた上条さんが、私の方に身を乗り出す。
もともとそんなに離れて座っていないため、あっという間に目の前に迫ってきた顔に、慌ててソファの上で後ずさった。