高嶺の社長と恋の真似事―甘い一夜だけでは満たされない―


「えっ、わ、上条さん……?」

横抱きにされ今日一番の大声が出る。
でも、そんな私なんて気にもせず、上条さんは緑川さんに視線を向けた。

「車を回せ」
「はい。先ほど病院に行き点滴も受けているようですが、どこに運びますか?」
「俺の部屋でいい」

朦朧としながらも「もう、そこが私の部屋なので大丈夫です」と言ったけれど、緑川さんは当然のように上条さんの返事を優先した。

「わかりました」

私の意志を無視して決まった行き先についに頭がショートし、意識が遠くなる。
上条さんの胸に頬を寄せると、私を抱く腕に力がこもった気がした。

「上条さん、なんで……今日は桃ちゃんと……」

自然ともれた声は自分でも驚くほど弱弱しい。
それでもきちんと届いたようで、上条さんは「ああ。会ってきた」と答えた。

「この間会ったときには答えられなかった質問があったんだ。だから今日、それに答えてきた」

質問……?
疑問に思ったけれど、それはもう声にはならず、ただ見上げるだけとなった。

そんな私を見た上条さんは、私が言いたいことを誤解したようだった。

「俺はおまえがどう感じようと触りたいと思ったら触るし、必要なら抱き上げる。そもそもその話だったら先週、金曜の夜に終わったはずだ。それに、今はそんなことよりもおまえの体を休める方が先だ。いいから黙って寝てろ」

直後、車に乗せられたところまではわかったけれど、それ以降はだんだんと意識が薄れ、そのうちにプツリと途切れた。




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