高嶺の社長と恋の真似事―甘い一夜だけでは満たされない―


「……ん」

重たい瞼を持ち上げて映った光景をしばらく眺める。
自室ではないことを遅れて理解してから周りを見回して、ここが上条さんの部屋だと気づいた。

遮光性の高いカーテンのわずかな隙間から明かりが差し込んでいる。

つまり、朝か昼ということになるわけだけれど……私はいったい、何時から寝ていたんだろう。

病院を出たのが十五時くらいだった気がするけれど、その後、どうしたんだっけ。
どうにか思い出そうとして、うっすらとした記憶が浮かんでくる。

そういえば、上条さんに薬を飲まされた気がする。
服も、一度汗をかいたからって着替えさせられたんだっけ? それに、おでこの冷却シートも何度か替えられた気が……。

そう思い自分のおでこに手をあてると、そこには記憶していたとおり、冷却シートが貼ってあった。

ベッド横にあるサイドテーブルの上には、水のペットボトルと病院で処方された薬、体温計が置いてある。

着ているのは白いTシャツとグレーのスウェット。

私が着ていたはずのブラウスとキャミソール、スカート、それにストッキングは部屋には見当たらない。

ぼんやりした頭のまま現状把握だけしていたとき、寝室のドアが開く。
顔を上げると黒いTシャツにグレーのスウェット姿の上条さんが入ってきたところだった。

私を見てわずかに安堵の色を浮かべた上条さんが、ベッドに腰を下ろし、私の頬に手の甲で触れた。

「熱はだいぶ下がったな。気分は?」

起きてすぐのようなラフな髪の上条さんにドキドキしながら答える。

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