高嶺の社長と恋の真似事―甘い一夜だけでは満たされない―


「大丈夫です」
「なにか腹に入れた方がいい。昨日、適当にゼリーだとか果物を買ってきておいたから食べろ。口に入れてみて普通に食欲があるようならパンもいくつかあるから。とりあえず、熱測れ」

差し出された体温計を受け取り、Tシャツの襟首から入れる。

そこで初めて、上も下もダボダボなサイズだと気づいた。
どうやら上条さんの服らしい。

「あの、なんだかすごく迷惑をかけてしまったみたいですみません……。上条さんが看病してくれたんですよね?」

上条さんと看病なんて、イメージ的にどうやっても結びつかない。
だいぶ無理させてしまった気がして謝ると、上条さんの手が頭をなでた。

「別に構わない。病院の方がいいと言った緑川を止めてうちに運ばせたのは俺だ。責任をとって看病するのは普通だろ。それにおまえは静かに寝ていただけだし、面倒もかけられていない。……まぁ、あまりに眠り続ける上、寝返りひとつ打たないから心配はしたが」

ふっと頬を緩めた上条さんに目を見開いたとき、体温計が鳴る。
まだ取り出してもいないのに「何度だ」と聞いてきた上条さんに、焦りながら確認すると、体温は三十七度三分。

微熱まで下がっていた。

「まだあるのか……」
「あ、でも、もうだいぶ楽になりましたし、気分的には全然大丈夫です」

上条さんの声に心配が滲んでいるので、慌てて笑顔を作る。
たっぷり寝たおかげか、頭からも体からも熱っぽさが抜け気分はスッキリしていた。

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