高嶺の社長と恋の真似事―甘い一夜だけでは満たされない―


「もしかしたら、上条さんの言うようにそういう考えがどこかに潜んでいた可能性は否定できません。でも、気持ちとしては断固として違います。上条さんだったからだって、私は思ってます」

言いきって、上条さんをじっと見据えた。

「その上で、ラッキーだったのは私の方です」

たまたま出逢えて、こうして気持ちを通じ合わせることができた。
その因果を、上条さんもラッキーだと捉えてくれているのなら嬉しいけれど、でも、私にとってのラッキー度合いの方が大きい。これは絶対だ。

譲らない私を見て、ふっと笑った上条さんに私も笑顔を返してから、バッグからお守りを取り出した。

いつか上条さんが神社で用意してくれたお守りだ。

「これのおかげでしょうか」

聞いた私に上条さんは、おかしそうに笑った。
珍しい笑顔に目を奪われていると、上条さんが手を伸ばし私の持っているお守りをとった。

「そうだな。まぁ、どちらかと言えば、体を張った初代の功績が大きい」

上条さんに踏まれたお守りを懐かしく思っていると、上条さんが手の中でお守りをいじりながら「でも……まぁ、おまえのおかげでなんとなく俺もわかった」と呟くように言った。

「美波が笑っていると、俺がこんな顔をさせてるんだとまんざらでもない気持ちになるし、もっと喜ばせてやりたいとも思う。美波の表情だとか感情の原因のすべてが俺だといいと考えるようになった」


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