高嶺の社長と恋の真似事―甘い一夜だけでは満たされない―


「あの、申し訳ありませんでした」

ベッドの上で足を正して、痛みの引く気配を見せない頭をぺこりと下げる。
緑川さんは「なにがですか?」とわざとらしい声で言ってから、まるで今思いついたように「ああ」と続ける。

「〝気持ちが通じ合っていない相手となんか関係持ちません〟だとか〝貞操観念のない女って言ったこと謝ってください〟だとか言ったくせに、その日のうちに社長と寝たことですか?」

下げたままの頭に緑川さんの言葉が突き刺さる。
その通りすぎてぐうの音も出ない。

「あのときは本気でそう思っていたんです。……でも、本当にすみませんでした」

再度謝罪すると、緑川さんは「はー」とわざとらしく大きなため息をついた。

「まぁ、社長のスペックに惹かれる気持ちはわかりますけどね。だとしても、その日のうちに体まで開けるあなたたちみたいな女性の気が知れない。まったく勘弁してほしいです」

嫌悪感丸出しで言う緑川さんに、眉を寄せる。
その通りだけど……まったくもってその通りだけど、そんな言い方はないと我慢できず口を開く。

「迷惑をかけたことと、偉そうに言って謝罪を要求しながらこういう結果になったことは謝ります。でも、なにも私が上条さんを襲ったわけじゃないですし、大人同士の合意の上です。緑川さんにそこまで言われる筋合いはありません」


< 28 / 213 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop