高嶺の社長と恋の真似事―甘い一夜だけでは満たされない―


「う……っ」

動いたせいで忘れていた頭痛がひどく主張してきて、頭を両手で押さえながら声の主を確認する。
そして……頭痛からではなく、顔をしかめた。

ここがホテルの一室だということは、記憶通りだったとして。ベッドから少し離れた場所に立っているのは、上条さんの秘書の緑川さんだった。

レースのカーテン越しのやわらかい光が、緑川さんの髪を染めていた。

「おはようございます」と、無感情な顔と声で言われる。

「おはようございます……あの、上条さんは……?」

寝起きの掠れた声で聞いた私に、緑川さんは表情ひとつ変えずに淡々と答える。

「ここは、昨夜飲んでいたバーからタクシーで十分ほどの場所にあるホテルの一室です。社長はどうしても外せないクライアントとの打ち合わせがあるため、一時間前にここを出ました。俺は、社長から、高坂さんのチェックアウトまでの面倒を見るよう言いつけられたため、それを遂行しているところです」
「あ……はい」
「他にご質問は」

敬語ではあるものの、緑川さんの態度はとても高圧的だった。
ベッドの上に座っている状態の私と、立っている緑川さんだと、緑川さんの方が私を見下ろす位置になる。それもあってか、本当に圧がすごい。

その理由はなんとなくわかっていたので「いえ……大丈夫です」と答えてから、恐る恐る目を合わせた。

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