高嶺の社長と恋の真似事―甘い一夜だけでは満たされない―
「いえ……上条さん、淡泊なタイプかと思ったのに想像と違って、その、丁寧だったので……今、思い出して恥ずかしくなっただけです」
説明すると、緑川さんは心底嫌そうに顔を歪めた。
それから切り替えるようにひとつ息を吐き、私の前に手のひらサイズの小さな箱を差し出す。
箱の左上には〝アルコールからの頭痛に〟と書かれている。
「薬です。二日酔いに効くのでどうぞ」
急な優しさに驚きながらも、「あ、ありがとうございます」と受け取ろうとした。
なのに、私が箱に手を伸ばしても、緑川さんが手を離さないどころか、ぐっと力を入れて引くので、引っ張られる形になりベッドの上でバランスを崩す。
二日酔いのせいで力の入らない体はぺしゃりとベッドに崩れ、顔からダイブする結果となった。
いくらふかふかなベッドだとは言え、打った鼻が痛い。
「え……もしかして、今、意地悪しました? まさか腹いせで……?」
いい大人がこんなつまらない意地悪を……?と信じられない思いで見上げると、緑川さんが冷たい目で私を見ていた。
「いえ、差し上げますよ。ただし交換条件です。これと引き換えに、今後社長の前に姿を現さないと約束してください」
そういえば、と昨日の話を思い出す。
ストーカーまがいな付きまとい行為がたまにあって、最近も警察沙汰になったという話だった。
緑川さんがここまで警戒するのだから、少ない回数ではないんだろう。そして、関係を持った女性全員がストーカーになるわけではないから、上条さんとベッドを共にした女性はその何倍もいるってことだ。
それがわかり、気持ちが静かに落ち込んでいくのを感じた。