高嶺の社長と恋の真似事―甘い一夜だけでは満たされない―
「そんなんじゃないよ。ただ、交換条件を断っただけだし。そのあとの電車が本当にツラくて、物理的にずっと頭抱えてた」
八月十日、月曜日。十九時四十分の店内は七割方の席が埋まっていた。
祝日でもスーツ姿の男性の姿が目立つ。
うちの会社は土日祝日は休みなので、みんな祝日でも頑張ってるんだなぁと心のなかで〝お疲れ様です〟とねぎらう。
「二日酔いって初めてだったけど大変だってわかったし、もう飲まない。禁酒する」
ジンジャーエールを飲みながら言った私に、後藤が「高坂、飲めないもんなぁ」と、テーブルの上にあるだし巻き卵を箸でつついた。
このお店にくると、だし巻き卵とモツ煮、オイルパスタを頼むのが決まりとなっている。
私はいいとして、意外にも後藤も目新しいメニューには挑戦しないタイプらしく、一度食べて美味しかった三品は固定となった。
「普段から飲まないくせに急に飲んだりするから気分が舞い上がってそんな大胆行動に出ちゃったんだろうなぁ。高坂って普段真面目でいい子ちゃんタイプだから色々ストレス溜まってたんじゃねぇの? そのタガが外れたんだろ、きっと」
今日初めてオーダーしてみたタコの唐揚げを見つめながら答える。
「ストレスとかじゃなくて、単純にいいなって、もっと一緒にいたいなって思っちゃったんだよ。……でも、やっぱり、出逢ってその日にっていうのは相当おかしくなってた部分はあると思う。そうじゃなくちゃ、できるはずないし」