高嶺の社長と恋の真似事―甘い一夜だけでは満たされない―
「そんなこと言われても、バカみたいに美味しい美味しい言って締まりのない顔して、上条さんに呆れられたり……もありますけど、その、嫌われたりしたらどうしようとか、一応思うじゃないですか」
ぼそぼそと言った私を見た上条さんは目を見開き……それから、おかしそうに笑い出す。
笑われていることにはやっぱり少し腹が立つのだけれど、楽しそうな笑顔に胸が締め付けられるのは止められない。
複雑な気持ちで不貞腐れている私に、上条さんはまだ笑みの残る顔で言う。
「この間も思ったが、素直で飾らない性格だな。昔からそうだったのか?」
「素直……というか、嘘は苦手でした。嘘つかれるのも、つくのも、両方ダメで……」
話し出すと徐々に気持ちに靄がかかっていく。
なかったこととして心の奥底に埋めた思いがうごめくのを感じ、慌てて笑顔を作った。
「きっと単純なだけです」
強引に話を終わらせ、ケーキを口に運ぶ。
ぶつりと切れた会話に、上条さんはしばらく私をじっと見ていたようだったけれど、そのうちに視線が外れたのを感じ、ホッと息をつく。
あまり掘り返されたくはないので、追究されずにすんで安心した。
「さっき、どうしてここに連れてきたのかを聞いただろ」
顔を上げると、上条さんは窓の外を眺めていた。
私も同じように外を見ながらうなずく。
乗船したときには、夕暮れの色を残していた空は、もう夜に染まっていた。
「試食会でも、そのあと行ったバーでも、おまえがやたら楽しそうな反応をするから、それが頭から離れなかった。だから、どうせなら喜ぶような場所に連れて行きたいと思った」
そこで一度切った上条さんが、私に視線だけ向ける。
ふっと笑みを浮かべた顔で「それだけだ」と告げられたら、もうケーキなんて食べている場合ではなかった。