高嶺の社長と恋の真似事―甘い一夜だけでは満たされない―
あんなのは、もう十分だ。
同じことがあったら、きっともう耐えられないし、だったら、ここでバッサリいかれた方が断然いい。
膝の上に置いていた手をギュッと握りしめていたとき、上条さんがひとつ息をついた。
「返事は、今すぐ出さないとダメか?」と聞かれ、驚く。
「え……」
「おまえが今までに好きになった男の人数は?」
突然聞かれ、呆気にとられる。
でも、すぐに「何人だ?」と再度問われたので、慌てて頭を働かせた。
好きになった人は……と考え始め、最初に幼稚園の頃の初恋が思い出されたけれど、きっとこの場合は物心がついてからのことを聞かれているんだろうと判断する。
「中学と高校でひとりずつと、大学で……ふたり、社会人になってからひとり、ですけど」
どうして聞かれたのかがわからず、そして答え方があっているのかもわからず、首を傾げながら答えた私に、上条さんはわずかに眉を寄せ「案外多いな」とこぼした後黙った。
そして、視線を窓の外に移し、言いづらそうに口を開く。
「正直、俺は今までそこまで積極的に恋愛してきたわけじゃない。だから、いまいち自分の感情が……」
「あ……大丈夫です。上条さんが色んな女性と遊んできたことだったら、緑川さんに聞いて知ってます。数年前までは、後腐れなさそうな女性とひと晩過ごすなんてことは日常茶飯事だったって」