高嶺の社長と恋の真似事―甘い一夜だけでは満たされない―
特定の恋人を作らずに遊んできた過去に対して言いたいのかなと思い、フォローするつもりで発言したのだけれど、上条さんは不意をつかれたみたいにキョトンとし、それから顔をしかめた。
まさか緑川さんが私に過去の話をしたとは思っていなかったらしい。
気を取り直したようにため息をついた上条さんが言う。
「そんな話を聞いておきながら、よく俺を好きだと言えたな」
「びっくりはしましたけど……でも、だからって一緒にいた時間のなかで感じた嬉しさとか好意は嘘ではないので。あのひと晩だけじゃなくて、今日過ごした時間の中でも、やっぱりいいな好きだなってドキドキしたので、ああもう本当にこれは恋なんだなって確信……」
「もういい」
途中で遮られる。
上条さんは、眉間にシワを寄せ口元を押さえていた。
不快にさせてしまっただろうかと思い、謝ろうと口を開いたところで、上条さんが私を見た。
「すぐには判断できない。ただ……おまえの気持ちが迷惑だとは思っていないし、好意があると言われて悪い気もしていない。それが、とりあえずの俺の正直な気持ちだ」
告げられた言葉に驚き、声を失った。
だって、まさかこんな答えが返ってくるなんて思ってもみなかった。
緑川さんから聞く限り、軽い付き合いを好んできた上条さんにとっては、私の〝頑張っちゃいますよ〟なんていう宣言は、重たい以外のなんでもなかったはずだ。
だから、きっと拒否されるだろうと思っていたのに……と信じられない気持ちでいっぱいだった。