高嶺の社長と恋の真似事―甘い一夜だけでは満たされない―


今までの三回、私は桃ちゃんを上手に励ませないまま終わっている。いつも桃ちゃんは私の背中を押して元気をくれるのに、だ。

だから今回はどうやっても傷を癒してあげたい……と思うものの、桃ちゃんのオーダーは〝紳士的な男の人〟だ。

私が気軽に呼べる異性なんて後藤くらいしかいない。異性ではあったとしても、後藤は軽率すぎるし傷口に塩を塗る結果になりかねないのが目に見えている。

貞操観念がおかしい後藤と仲がいい男性の中に紳士がいるとも思えない。
となると他には……と考え、上条さんの顔が浮かんだ。

上条さんの知り合いになら、きっと紳士的男性はいると思う。

いや、でも……上条さんに頼むのはちょっと、とためらう。
だって、こういう話を嫌がりそうだし一蹴されるのが容易に想像がつく。それに、こんなことを気軽に頼める間柄でもない。

私の相手だけでも面倒だろうに、そこにさらに面倒事を持ち込んだりしたら今後距離を置かれてしまうかもしれない。

それでも、未だうなだれたまま顔を上げられない桃ちゃんを見れば私にできることならなんでもいいからしてあげたいという思いに駆られ、意を決して携帯に手を伸ばした。

昨日の時点では、私に電話をくれたくらいだし予定はなかったハズ……と思いながら通話ボタンを押す。

出てくれない可能性も高いと思っていたのに、上条さんはツーコール目の途中で電話に出た。

『はい』
「あの、高坂です。上条さん、今、大丈夫ですか?」
『ああ。先に言っておくが、昨日話していたイタリアンならキャンセルしたから今更行きたいって言っても無理だからな』
「そうじゃなくて……その、誰か、お友達を紹介してもらえませんか?」

一拍置いたあと、『は?』という不機嫌な声が返ってきたので詳細を話す。


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