高嶺の社長と恋の真似事―甘い一夜だけでは満たされない―


「今回こそうまくいくと思ったのにな」

独り言みたいにつぶやいた声には悲しさが滲んでいて、私の胸まで苦しくなる。

桃ちゃんはいい子だ。
いつでも明るくて元気な桃ちゃんは私にとっては太陽みたいにキラキラした存在で、一緒にいるだけで気持ちが前向きになれる。

お互い恋に積極的なこともあり、好きな人ができたときには背中を押し合ったし、私が恋愛で傷ついてどうしようもなく落ち込んでしまったときには、黙って抱き締めて傍にいてくれた。

そんな桃ちゃんの恋愛は毎回、実家が佐々岡クリニックだとカミングアウトしてからギクシャクし始めうまくいかなくなる。

失恋で落ち込んだ桃ちゃんを見るのはもう四度目だった。

相手の実家がすごかったら尻込みする気持ちもわかるものの、根性のある男がひとりやふたりいてもいいのに、と悔しくなる。

「もうダメなんだよ、私なんか。佐々岡クリニックの名前を背負って生まれた時点で恋愛詰んでるんだよ。実家を知った上で私と付き合い続けてくれる男なんて、財産目当てのクズしかいないんだよ」

ネガティブモードになった桃ちゃんが「紳士的な男の人に思いきり甘やかされたい。ちやほやされたい」とテーブルにうなだれる。

桃ちゃんの気持ちはよくわかった。
仕事で落ち込んで自分ではどうやっても自分自身を持ち上げられないときは、私だって、誰かに抱き締めてもらいたくなったりする。

ただ、よしよしって頭を撫でられたいときもある。


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