シンガポールから出られない!
高級ブランドの腕時計で時間を見て、リシさんは驚く。

「すみません、もう少し早く回ればよかったですね」

私がそう言うと、「違いますよ」とすぐに否定される。顔を上げれば、リシさんは穏やかな表情で私を見ていた。互いの黒い瞳が絡み合う。

「梨花さんといると、驚くほど時間が経つのが早いんです。それほどあなたの隣で楽しいと感じているんですよ」

僕の家に案内します、そう言われて手を引かれる。繋いだ手が熱い。それは高温多湿なシンガポールの気候のせいなのか、それともーーー。

(SNSで知り合った人に、しかも社長なんてすごい立場の人に、こんな気持ちを抱くはずない。きっとイケメンだからドキッと自然にしちゃうだけよ!)

そう言い聞かせながら私はリシさんのエスコートで彼の高級外車に乗り、彼の家へと向かった。



シンガポールに来ない?とリシさんに誘われた時、本当はどこかホテルを予約するつもりだった。大企業勤めではないから、船の形をした大きなプールがあるマリーナ・ベイ・サンズには泊まれないけど、そこそこのホテルなら予約できるだろうと思っていたんだけど、リシさんに反対されたんだよね。
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