離婚却下、御曹司は政略妻を独占愛で絡めとる





結婚からひと月、季節は春。私と瑛理は別居婚を継続している。
瑛理はこの状況をいいとは思っていないようだ。だけど、誰かに何か言われるまでは動かないだろう。なにしろ、瑛理は私に時間を割く人間ではない。そういう男だ。

そんなある日、私は瑛理に呼び出された。
仕事の後、話があるというので待ち合わせ場所と時刻を決めた。しかし、当日になって瑛理に職場近くまで来てほしいと言われる。
なんでも会議が入ってしまい、レストランの予約時間ギリギリになるそうだ。レストランはしづき株式会社の近くなので、別にいいけれど。

そんなわけで私は定時退社をし、瑛理の職場にやってきた。
総合商社しづき株式会社本社ビルはおしゃれなつくりだ。近未来的なデザインの吹き抜けのエントランス、凝ったデザインの壁や柱、空間にマッチした植栽。受付用のタッチパネルがずらりと並び、社内に入るのもゲートをくぐる必要がある。有人の受付ブースもあり、来客にいつでも対応できるようにしてある。
我が社古賀製薬の方が昔は大きな会社だったそうだけれど、今は総合商社に鞍替えしたしづきの方が会社の規模は大きい。

受付に話を通してあるから来客用の簡易ブースで待っていろとは言われていた。有人の受付に申し出て、エントランス横のブースに通してもらう。
そこには丸テーブルとイスのセットが二十組ほど並んでいる。全面ガラス張り壁面の向こうには庭木がずらり。徐々に日が長くなりつつある四月の今は、雰囲気のある夕暮れ時の木々が見えた。応接室もあるのだろうけれど、ちょっとした打ち合わせなどはこういったところでするに違いない。
定時を過ぎた今は、私しかここにはいない。
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