離婚却下、御曹司は政略妻を独占愛で絡めとる
6.キスしてもいいか?



日が昇るのが早くなった。朝六時半、朝日がカーテンの隙間から差し込み、俺は目を開ける。身体を起こすと、俺の隣で眠っていた柊子が身じろぎした。
長いまつ毛が震え瞼が持ち上がり、綺麗な黒い目が見える。

「おはよう、瑛理」

まだ眠たそうに言う妻に俺は答える。

「おはよう。まだ寝ててもいいんじゃないか?」
「朝の家事に慣れてないから、もう起きる。お洗濯に、朝ごはんに、掃除機に……。自分の身支度してると時間なくなっちゃうんだ」

俺も柊子も長く実家暮らしだったため、いざふたりですべての家事を行うことになると、その煩雑さに驚く。俺もアイロンかけくらいはしていたけれど、料理は数えるほどしかしていない。

「じゃあ、トーストとコーヒーは俺がやるから、洗濯を頼む」
「ありがと。チーズトーストにしてくれると嬉しいなあ」
「了解」

柊子は率先して家事をしてくれるので、俺もできる限り分業する体制だ。
ベッドから降りようとして、後ろ髪を引かれる。シーツの上には名残惜しそうに布団にしがみついている柊子がいるのだ。猫がじゃれているみたいに無邪気な様子に、離れがたくなる。こんな可愛い柊子を拝めるのは同居のおかげ。

「柊子、やっぱりもう少しゆっくりしてろよ」
「ちゃんと起きるよ。大丈夫だよ」
「眠そう」
「平気だってばあ」

反論するためにがばっと起き上がった柊子。そのパジャマの前ボタンがいくつか開いている。柊子は気づいていないようなので、俺はそっと目をそらした。
柊子の下着を俺は見ていない。見えていないぞ。

「よし、起きるか」

視線をそらしたまま、ベッドから降り、伸びをした。
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