OL 万千湖さんのささやかなる野望



 夕方、チラ、と壁の丸時計を見て、万千湖は思う。

 そうだ。
 課長に連絡先を寄越せと言われたんだった。

 よその課とはいえ、相手は上司様。

 一社員としては、素早く要求をこなさねばならないのでは。

 いや、夕方な時点ですでに素早くはなかったのだが……。

 でも今、経理に用事なんてないし、行きづらいなー。

 なにか経理に行く理由になるものはないかな、と万千湖はデスク周辺を見ながら、ゴソゴソした。

「どうしたの? 白雪さん。
 なにか落とした?」

 隣の席の感じのいい男性社員、綿貫(わたぬき)が訊いてくる。

「あっ、それですよっ」

 万千湖は彼を振り向き、手を打った。
 身を乗り出したせいか、綿貫がちょっと身を引き、赤くなる。
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