暴走環状線
車に乗り込み、帰路につく。
豊川が紗夜を見る。

「恭子って人が寄ってました。時間は恐らく最終に近い遅い時間です」

警戒心と共に、彼女の心に浮かんだ記憶を読み取っていた。

「鈴蘭って店なら、来る途中で看板を見かけましたよ、寄りますか?もう少し行ったところです」

「寄る必要はないが、よく見てるなお前」

お腹が空いていたのである💧

「鈴蘭恭子って誰ですか?」

「東京で要人御用達の料亭の女将だ。板長もやっててな、この故郷に姉妹店をオープンさせ、あの日に駅前のホテルに泊まっていた。紗夜、それから?」

「はい、彼女は売店で食べ物とビールを買って…一度離れますが、戻って来てます。それから…ビールを貰って店を後に。食べ物は返してました」

「やっぱりか…なんてこった」

「どういうことですか?」

目を閉じる豊川。
バックミラーで様子を覗く淳一。

「山岸の死因は毒物による心肺機能停止だ」

「毒物⁉️」

「ああ、症状は青酸カリに似ているが、もっと強い毒性を示していた。東京に帰って調べたんだが…一番近いのは、河豚《ふぐ》毒」

「ふぐ?」

「毒性は青酸カリの10倍。摂取量にもよるが、多いと10〜30分で痺れや目眩、そして心肺機能低下で意識を失い死に至る」

(鈴蘭恭子!)

豊川の心に浮かんだ名前。
それを悟る豊川。

「あの日、鈴蘭恭子は、名古屋で和食を披露しててな。俺と妻の雅恵も出席していた。そのメニューに、河豚が使用されていたんだ。河豚毒は時間が経つと弱くなり、新鮮なほど強力だ」

「でもなんでまた彼女が山岸を殺るんだ?」

「俺達が予約していたホテルも彼女と同じでな、そこで雅恵と会い、俺の代わりに次の夜は下呂温泉に泊まったんだ。そこで、雅恵は彼女の身の上話を聞いた。今は離婚しているが、子供がいたってな。離婚も、恐らく子供を失ったことが原因だと雅恵が言っていた」

「では、恭子さんもあの事故で子供を…」

「調べてみたら、死んだ児童の中に、加藤由里子の名前があった。加藤は恭子の本名だ。雅恵の話では、不倫関係で出来た子とのこと」

「じゃあ、山岸を殺す目的で故郷に2号店を?」

「それは分からん。23歳の若さで和食を極め、独立して『鈴蘭』を始めた。名古屋で彼女に目をつけ、それの後ろ立てをしたのが、時任亮介。俺も店で何度か見かけたことがあるが、あの時のよそよそしさの理由がやっとわかったぜ」

「不倫の相手がその時任。彼も要人よね?」

「そうだ、時任亮介。国土交通省の執行役員。事故の時に公安の相沢湊人と現場にいた奴だ」

「おいおい、公安の相沢部長か?マジかよ!」

「我が子が死んだというのに…」

「荷物が一つ片付いたってことだ」

「酷すぎる!」

10年の時を経て、明らかになった闇の真実。
そして事故の発端となった真実。

だが紗夜達は、今起きている殺人の真実については、知る由もなかった。
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