ハロー、愛しのインスタントヒーロー


引っ越しの話が出たのはそのすぐ後のことだった。
沙織ちゃんはどこか諦めたような、それでいて希望を見出したような目をしていて、アンバランスな表情に一抹の不安を覚えた。

沙織ちゃんがどうして急に奈々ちゃんと会うことを許してくれたのかは、正直よく分からない。分からないことをずっと考えるよりも、希望が叶ったことを喜ぼうと思った。

七年ぶりに戻ってきた町は、すっかり変わっていた、とも、全然変わっていない、とも言えなかったけれど、奈々ちゃんとよく遊んだ公園を見つけた時は写真を撮ってしまうくらい嬉しかった。

見覚えのある簡素なアパート。感慨深く見上げて、ふと二階からこちらを見下ろしている一人の女の子を視界に入れた瞬間、本気で心臓が止まったかと錯覚した。

――“ななちゃん”。

僕には分かった。真っ直ぐなびく黒髪も、大きくて綺麗な瞳も、間違いない。ずっとずっと会いたくて願い続けてきた奈々ちゃんだ。


「奈々ちゃん、僕です。暮町絢斗です」


固く閉ざされたドアに何度も名前を呼んだ。それでも開かないドアに、経過してしまった月日に、僕は大事な人を深く傷つけてしまったことを知った。

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