ハロー、愛しのインスタントヒーロー


おかえり、なんて、言ったのはいつぶりだろう。
随分と懐かしい響きに誘われて、自然と口角が上がる。


「ただいま。奈々ちゃん」


泣いているのか笑っているのか、どっちつかずな顔のまま、絢斗がそう答えた。

おかえり、が久しぶりなら、ただいま、も久しぶりだった。
つられてうっかり涙が出そうになって、唇を噛む。もう泣く必要はない。長い夜も、寒い夜も終わった。泣くのは一人の時だけにする。きっと絢斗も私の知らないところでたくさん泣いた。

いま私の目の前には絢斗がいる。それだけなのに、たったそれだけが奇跡みたいに、涙が出るほど嬉しいのは、この世界で私しか知らなくていい。


「……絢斗、聞かせて」

「え?」

「会ってなかった間の話。手紙じゃなくて、直接聞きたい」


私の顔を見て、私だけを見て、絢斗の声で喋って欲しいんだ。だって、昔はそれが私たちの普通だったから。

絢斗が嬉々として話し出す。私は黙って聞く。私の話も聞きたいと言うから、絢斗に言えないアレコレはちょっとだけ伏せて、なるべく正直に話す。自分のことを大事にしないとダメだ、と絢斗に叱られる。そうやって七年間の空白を埋めていく。

絢斗の拳はまだ赤い。私の手首もまだ赤い。きっと、背中も赤いだろう。
けれども、いま私たちに必要なのは、外傷の手当てより心の充足だった。

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