ハロー、愛しのインスタントヒーロー


握られているのとは反対の手で、絢斗の肩を掴む。とんとん、と軽くたたき、腕にかけて優しく撫でる。
昔、絢斗が泣いた時、よくこうして落ち着かせていた。今それを咄嗟にしてしまっている自分にも少し驚いている。

知らなかった。いや、知るわけがなかった。絢斗がそこまで私に会いたいと切望していたことも、悩み苦しんでいたことも。
私だけじゃなかった。それが分かったから、彼には悪いかもしれないけれど、やっぱりどこか嬉しいと思ってしまう。

私が絢斗の想いを知らなかったように、絢斗だって私の想いを知らない。当たり前だ、何年もの空白があったのだから。


「……絢斗、ごめん」

「奈々ちゃんは悪くないよ……」

「うん、そしたら、絢斗も悪くない」


ぐすぐすと鼻を鳴らした彼が、私の言葉に頷く。


「僕、帰ってきたよ。奈々ちゃんに会いたくて、帰ってきたんだ」


もう突っぱねることなんてできなかった。反論も言い訳もない。それでも絢斗のことを突き放すことができるのなら、その方法があるのなら、教えて欲しいくらいだ。

私たちは戻れるだろうか。大切なものを、当たり前にきちんと大切にできるだろうか。


「うん。……おかえり、絢斗」

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