嘘よりも真実よりも
 青年は、富山清貴(とみやまきよたか)さん。大企業のオフィスが入る富山ビルを所有する、大手不動産会社を営む富山家の次男で、私より4歳年上の31歳。

 生まれた時から一緒に暮らしていて、兄のように慕う男性のひとり。自由闊達な性格で、消極的な私をいつもぐいぐいと引っ張ってくれる清貴さんは、幼少の頃からの良き理解者だった。

 富山家に住み込みで働いていた家政婦、相楽万里(さがらまり)の娘である私が、清貴さんを兄だなんて言うのは、とてもおこがましいのだけど。

「あっ、清貴さん、おはようございます。今、ちょうどフレンチトーストが出来上がったところなんです。食べますか?」
「ああ、いいね、美味しそうだ。食べるよ」

 フレンチトーストを盛り付けたお皿をカウンターの上に乗せると、清貴さんは新聞を脇にはさみ、サッとお皿をテーブルに運ぶ。

 家政婦だった母の万里が小学生の時に亡くなって以降、新しい家政婦は雇われなかった。私はできるかぎりのお手伝いをしながら、富山家のお屋敷に居候させてもらい、学校にも通わせてもらった。

 その私ももう、27歳。久我(くが)みちるの名前で翻訳家の仕事をしていて、収入もそれなりにある。

 いつでも一人暮らしできる環境にはあるけれど、清貴さんが出ていく必要はないと言ってくれて、今でもお屋敷に住まわせてもらっている。

 だから、時間が合うときは、こうやって清貴さんと朝食を摂るのも珍しくなかった。

「コーヒーはブラックでいいですか?」
「うん、いいよ。ありがとう。……20歳年下と結婚ってすごいよな。よく結婚する気になったよ」

 テレビを見ながら清貴さんはそう言うと、私と同じように、チャンネルをいくつか変えたが、結局、四乃森直己のニュースばかりだからか、しまいにはテレビを消してしまった。

「兄さんはもう仕事行った?」

 ふたり分の朝食が並ぶテーブルに、向かい合って座ると、清貴さんはゆっくりとリビングを見回した。
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