いっそ、君が欲しいと言えたなら~冷徹御曹司は政略妻を深く激しく愛したい~
 史織は首を左右に振る。

「いいえ……そんなの……。さっきも言ったけど、わたし、泰章さんと暮らせて……結婚できて、嬉しかったんです」

 泰章の眼差しに包まれて、史織は泣きそうな顔をこらえて微笑んだ。

「大好きです……泰章さん。すごく、嬉しい……」

 握られた手が引き寄せられ、同時にふたりの顔が自然と近づく。唇が重なると互いの腕が愛しい人を抱きしめた。

 ――片想いだと思っていたのに。優しさに自惚れてはいけないと、自分を抑えていたのに。

 そんな必要はなかった。堂々と、彼を好きでいてよかったのだ。

「泰章さん……」

 彼の名前を呼べることが、こんなにも幸せに思えるなんて。

 唇を重ねたままお姫様抱っこをされてベッドへ移動する。服を着ていることが、こんなにもどかしく感じたのは初めてだった。早く彼の肌を感じたくて、脱がされることに積極的に協力した。

「服を一瞬で消せる方法ってないのかな」

 冗談のように口にする泰章の気持ちも同じだったようで、彼はこの後が心配になるくらい乱暴にスーツの上着からウエストコート、ブレイシーズ、ワイシャツと脱ぎ捨て、お互いが一糸まとわぬ姿で肌を重ねる。

「泰章さんの肌、気持ちいい……」

「史織の方が気持ちいいよ」

 全身余すところなくまさぐられ、食べられてしまうのではないかと感じるくらいに唇が這う。

 今までで一番の昂ぶりを感じ、自分でも困るくらい快感の泉で濡れそぼった気がする。

「やす……あきさん……」

 体内がすべて泰明で埋まってしまったような心地。いっそこのまま、本当に彼と同化できたら幸せなのに。

 激しく揺さぶられるその振動が、ゆりかごで揺られているかのように全身を陶酔させ……。

「愛してるよ」

 史織は、幸せに酩酊した――。
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