いっそ、君が欲しいと言えたなら~冷徹御曹司は政略妻を深く激しく愛したい~
「待ち伏せ……ひぇっ?」

 とっさにおかしな声が出てしまった。待ち伏せ、と言う言葉に、どことなく仄暗いものを感じてしまったからかもしれない。

「そんなすごい声を出すほど驚いた? ごめん」

「あ、いえ……こ、こちらこそ、すみません……」

「というわけで、食事に誘いたいんだけど、どうかな? なにか予定はある?」

「予定らしき予定は……。帰ってご飯食べるくらいで……」

「それなら俺と一緒に食べよう。よかった、今日こそはと思って誘いにきて」

「今日こそは……?」

 困惑しつつも泰章を見ると、彼はちょっと照れくさそうな顔をする。

「何度も誘いにきたかったんだけど、なかなかね……。今日こそは絶対と思って。仕事も出先から直帰だったし、急げば間に合うかなと思って頑張った」

 誘いたいと思っていたけれど、なかなか……決心がつかなかった、ということだろうか。

 夢のような話だ。まさか、来店するたびに素敵だなと思って見ていた泰章から誘われるなんて。

 チラリと彼に視線を向け、恥ずかしくなって自然に下げる。口調が変わろうと、雰囲気が変わろうと、全身から漂う上品さは健在で、なんとも言えないイケメンオーラが漂っている。

 バス停でも信号の前でも店の前でもなく、道の真ん中での立ち話。通り過ぎる人たちが振り向くのは、決して通行の邪魔だからではなく泰章を見ているからだ。

 誰もが振り返っていくような男性に誘われるなんて。ますます信じられなくなってくる。

「どうして……と聞いたら失礼でしょうか。わたしに声をかけてくれたのは、なぜですか?」

「どうしてって、いつも相談にのってもらっているし、お店でも親切にしてもらっているから」

「あ、お客様としてということですよね。申し訳ございません、お客様に個人的なお誘いは……」

「っていうのは、表面上の言い訳で、ただのナンパです」

「ナンっ……」

「気になった女の子がいたら、食事やらお茶やらに誘いたくなるものでしょう。情けないことに二年かかったけど」

 接客のお礼で誘ってくれているなら、従業員としてお断りするべきだ。実際、店で接客していると男性のお客さんに連絡先を聞かれることもある。もちろん従業員の立場として丁寧にお断りするのだが、この場合は……どうしたらいいのだろう。

 ただのナンパ……。

 これは、断るも受けるも、史織の気持ち次第ということになるのだろうか。
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