いっそ、君が欲しいと言えたなら~冷徹御曹司は政略妻を深く激しく愛したい~
 洋服のことだってそうだ。泰章に選んでもらえて嬉しいと、泰章の方が嬉しくなることを言ってくれた。

 あれで冷たく突き放せる方がすごい。

 泰章の脳裏では、帰ってきてから見た史織の戸惑った顔や照れた顔、あたふたする様子などが次々によみがえってくる。

 しかし、幸せに浸りそうになった自分を、泰章は全力で殴り飛ばす。

(ダメだ、こんなことをしていたら毎日史織を抱いてしまう)

 自分でも危機感を理解できている。このまま何回も抱いていれば、そのうちぽろっと愛の言葉を囁いてしまうだろう。

 今だって全力でこらえているのに。

(寝室は……別にしよう……)

 史織の温もりに気持ちを溶かされつつも、泰章は泣く泣く決心をした。
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