クビになった聖女ですが、嫁ぎ先で真の力が目覚めたので第二の人生は幸せです なぜか辺境竜騎士様の溺愛が止まらないのですが!
 侍女頭の問いに「はい、一応」とだけレーニスが答える。

「今からそこに連絡用の早馬を飛ばしてあげます。明日、そこに帰りなさい」

 元聖女候補であるが故、神殿には置いておくことはできない。
 その理由は、周囲からの目と声、そして暴力。それに耐えられるような鋼の精神と強靭な肉体があればいいが、聖女候補としてここで生活をしてきた彼女たちにはそれが無い。
 侍女頭はそれを知っていた。

「あ、あ、ありがとうございます」

 レーニスは侍女頭に向かって頭を下げた。それは先ほど、聖女様へ向けた御礼と同じ言葉なのに、どこか声色が違って聞こえた。

 侍女頭が言う隣の部屋とは、通称、説教部屋と呼ばれる部屋。粗相をした侍女たちがここに押し込められて、侍女頭や神官たちからいろいろと攻め立てられるという話を耳にしたことがある。
 だけど、それはただの噂かもしれない、とレーニスは思った。
 彼女のように聖なる力を失った聖女候補たちの最後を、侍女頭は今までもこうやって見送っていたのだろう。
 質素な寝台ではあるけれど、眠るには充分な代物だ。短い時間の間でたくさんのことが起こった。そしてたくさん泣いた。
< 10 / 318 >

この作品をシェア

pagetop