偽装結婚の行く末
な、なんだこいつ。
タクシーの運転手がチラチラこっち見てきてるじゃん。
分かるよ運ちゃん、あたしもそっちの立場だったら気になって仕方ないわ。

これはタチの悪い冗談、分かりきってるのに動悸が止まらない。
悔しいから顔をしかめてガンを飛ばした。


「あんまナメないでくれる?」

「へえ、言うようになったな。耳真っ赤だけど」

「うるさい」


けど速攻で敗北。
仕方ないじゃん、あんた顔がいいもん。


「お前、単純でほんとかわいいな」

「酔ってんの?」

「そうかも」


全部酒のせい、そういうことにしておかないとついていけない。


「今日の美優、綺麗って思ったのは本当」

「はいはい、そーですか」


じゃないとうっかり好きになった時に地獄を見る。
振り向いてもらえないと分かってるのに好きになるなんて、みじめな思いはしたくない。


「あんた酔っ払うと口説き出すクセでもあんの?」

「知らね、それは初めて言われた」


相変わらず訳わかんない男。


「けど美優くらいだ、こんなこと言うの」


また口説いてきたから今度はシカトを決め込んでやった。
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