偽装結婚の行く末
「美優、気づいてた?」

「何に?」

「会場のヤツらお前に釘付けだったな」


自分が褒められたみたいに誇らしげに笑う昴。
でもあたしはちっとも嬉しくない。


「……もういいよそういうの。疲れた」


他人にどうこう評価されてもなんとも思わない。
そっかあたし、昴に褒めてもらいたかったんだ。


「なんでご機嫌ななめ?」

「……だから、疲れたの」


同じことしか言わないなとあたしに、昴は興味を失ったみたいに「ふーん」と呟いてポケットからスマホを取り出した。
あんたにとってあたしへの関心はその程度なんだ。

虚しくなるだけなのに気になってスマホの画面を覗き込む。


「え、ちょっと待って」


ところが、虚しくなるどころか驚いて声をかけてしまった。
だって昴のスマホの画面に映ってたのはあたし。

つまらなくて口をとがらす姿に、豪快に酒を煽る写真。
昴は話しかけても素知らぬ顔で写真をスライドし続ける。


「ねえ、聞いてる?それ盗撮ですけど」

「今バレたなら盗撮じゃない」


なんだその屁理屈。


「何のために撮ったの?」

「俺の婚約者はこんなに綺麗なんですよって自慢する」

「本物の婚約者じゃないのに?」


口から出た疑問に他意はなかった。
それなのに昴は色気を含んだ妖艶な笑みであたしと視線を合わせる。



「お望みなら本物の婚約者にしてやろうか?」




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