僕らは運命の意味を探していた。
一章

深淵の僕

 大粒の雨が降りしきっていた。

 雨足は、話し声や車の走行音、そんな類の音さえも近づいてこないと聞こえてこないほど激しかった。

 僕は、今朝コンビニで購入したビニール傘を差しながら帰路を歩いていた。

 雨のせいか、心なしか普段より寂しい気分になっていた。

 「ねえ、マー君。ねえってば……。」

 僕は決まって無言を貫いた。

 背中越しに何度声をかけられようが、振り返りはしない。恐らく気を遣わせてしまう。それが嫌だった。

 「……マー君、また明日。」

 少し後、今度は萎れた声が背後から聞こえた。

 その声はあらゆる物音が聞こえづらくなる中で、何故か明瞭に聞き取ることが出来た。

 これが耳に届くたび、僕の心は荒む一途を辿っている気がした。

 制服の裾を濡らしながら歩くこと数分、アパートに着いた。

 実家から学校までの距離がありすぎるせいで、僕は一人暮らしを始める事にした。

 学校に比較的通いやすくかつ、格安だったこのアパートを選んだ。

 お陰でバイト生活だが、親からの仕送りのお陰で、何不自由無く生活は出来ていた。

 玄関を開けて、中に入る。

 見慣れた風景が広がっていて、どこを見ても僕は何とも思わない。面倒臭さを我慢しながら、作業的な生活を送っていた。

 ふと手洗いしながら呟いた。

「あれから一年、か……。」

 それは部屋に塞ぎ込んだキッカケ、人と距離を取り始めた契機。それが丁度一年前に起こった。思い出したくも、言葉にしたくもない、僕の黒く染まりきった歴史だった。

 その過去が僕の心に重くのしかかっていた。もう人と話す事が、恐怖でたまらない。それほど僕の心は人間と距離を置く事を欲していた。

 だから一人暮らしというのは自分的に好都合で、家族の詮索ないから随分と気が楽だった。

 それでも不安定な精神状態を抱えて過ごす毎日に僕は辟易していた。あいつには申し訳ないけど時々、人生を投げ出すことも考える。

 端的にいうと、僕は疲れているのだ。うまくいかない人生に、救われない僕の運命に。

 生きていても楽しいなんて一ミリも感じたことが無いし、『僕だけどうしてなんだよ』なんて悲劇の主人公じみた感情に陥ったことすら無い。僕には虚無感しかなかった。

 もう今の状態も続けられそうにない。自分を騙そうとしても上手く反応してくれないし、リミットなのだと思っていた。何となく自殺願望の人間の気分が少し理解できた。

 はあ。疲れたし、もう寝よう。考えるのも疲れた。

 僕は思考回路を停止させ、着替えることもせず布団に身を投げた。

 ごめんな、あき。いつも見捨てずに声を掛けてくれて。小学校から付き合いがあるからって、こんな重荷を背負わせてしまって。

 だから余計に甘えてしまうのかもな、お前という存在の大きさに。

 また明日、世界が変わっていたら良いけれど、そんな自分本位な考えで世の中は変わらない。だから無言で夜明けを待つ。

 それから間もなくして、意識が遠のいていった。

 変わらない身の回りに飽き飽きしながら、その時が来るまで、ひたすらに待とうと思った。
< 1 / 169 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop