僕らは運命の意味を探していた。
 アツの言葉が、綺麗に透き通っているような感じが、僕にはした。

 僕は、アツが言葉を放った瞬間に、涙が溢れてきた。

 そして一瞬にして、顔全体が涙で濡れていた。嗚咽を伴いながら、彼もまた僕同様に気持ちをぶつけていた。

「僕だってやりたい事沢山あったよ……。抱え込んだ気持ちも捨てるほどあったよ……。僕にもっと人間として時間があったらって、ずっと考えて来たよ……。」

 僕はアツのこの言葉を聞くことが出来た。

 その事実が嬉しかった。なぜならそれが、僕にとってある意味の悲願だったから。

「…………やっと本音で話してくれたんだな。」

「っ……‼」

「お前、全然自分の本心、話したがらなかったよな。そんな事だと思ったよ。人間こんなすっぱり諦められるほど、強くできてないからな。」

「……やっぱ、僕の親友は全部分かってたんだね。凄いや。勝てる気しないもんな。」

 アツの表情は少し柔らかくなっていた。

 それがこの場の雰囲気を、少しだけ解していたような気が、僕にはしていた。

「そろそろ、放してもいい? 敦。」

「うん、いいよ。」

 僕はようやく自由の身となった。

 すぐにでもアツを押さえればよかったが、そんな元気が僕には残っていなかった。

 おもむろに、僕は後ろを振り返ってみた。

 既に、一岡の体が透け始めていた。

 僕はそれを見て、複雑な気分に襲われていた。

「ありがとな、一岡。」

「何で私にお礼を?」

「僕に決心する機会を与えてくれたから。お前が押さえててくれなかったら、いまも不毛な言い争いをしてたと思うんだ。」

 僕は、今までの出来事を水に流して、お礼の旨を述べた。

 もうそんな過去の話を場面ではもう無いと、僕は感じていた。

「良いんだ。お礼なんて言わないでくれ。全ての元凶は私なんだからさ。」

 一岡は、悲しげな顔でそう言った。

 一岡も、運命の被害者。皆と立場は一緒なのだ。

 ただ、とった行動の違いで、立場が変わってしまった。

「長い人生お疲れ様。ゆっくり眠ってくれ。」

 僕は、一岡にそう声を掛けた。

 次の瞬間、一岡は消失した。

 笑顔を見せたまま、僕と敦に見送られながら。光と同化して、輝きながら昇っていった。

 そして、アツも体が無くなりかけていた。

「『あれ』の正体って心残りだったんだな……。」

「うん。龍次に説明する段階で流石にバレると思ったけど、案の定だったね……。」

 僕には、気づいたかどうかなんて、今さらどうでもよかった。僕はその心残りの方に焦点を当てたかった。

「真道。確かに僕には、『希望』と言う心残りはあった。やりたい事もあったし、見てみたい景色も沢山あった。でも、真道が気に病む事じゃ無いよ。だって僕は君を恨んじゃいない。逆に感謝してるんだ。」

 既に、腰あたりまで消失していたアツは、そんな自分の危機を厭わず、僕に心の内を話してくれた。

 僕はその返答で、その話題に終止符を打った。そしてアツの言葉に耳を傾けていた。

「皆の人生が幸福でありますように……。それじゃあ、ありがとう。僕の世界を綺麗に彩ってくれて……。」

「こちらこそありがとう……。アツのお陰で楽しい時間を過ごせたよ……。君の一生に花を添えられて良かった……。本当にありがとう……。」


 バイバイ、皆んな。ありがとう…………。


 彼はそう言い残し、笑顔のまま消失した。

 僕もその直後に気を失った。

 涙でぐっしょりだった僕とは対照的に、アツの顔に、涙は無かった。

 恐らく彼の決意の表れだと、俺は思った。

 皆、現実に帰ったのかな。

 普通の生活を送っているのかな。

  アツ……。

 起きるまでは、後悔させてくれ。

 起きたら、もう前を向いて歩くから。

 今だけは、お願い……。

 過去に浸る時間を、僕に下さい……。
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