僕らは運命の意味を探していた。

帰還

 ーーはっ。

 僕は病院の個室で目を覚ました。

 おもむろに周りを見渡し、今の状況を整理している。

 病室の窓から、オレンジに染まる空を、僕は何の気なしに眺めていた。

 ふと視線を落とし自分の身なりを確認した。

 髪の毛は肩まで伸び、体は骨が見えるほど痩せている。立ち上がろうとしても、筋力の低下で上手く動けなかった。

 そういえば、他の人はどうなったのだろう。

 僕がここで寝ているのなら、恐らく他の人たちも病院に運ばれて、同じように治療を施されていると、僕は思った。

 後はどこにいるのか、それが問題だった。

 とりあえず僕はベッドから立ち上がり、よろめく足を何とか動かして、病室を出た。

 夕方時間帯という事もあって、人気が少なかった。まずは周りを散策してみる事にした。

 一つずつ部屋を確認すると、隣に見慣れた名の表札があった。

 僕は、それを見て心臓が止まりそうになった。

 恐る恐るノックしてみると、聞き覚えのある女子の声が聞こえた。

「あ、あき。……良かった、また会えて。」

 僕は怯えたような声を出した。

 そして、僕は窓側のベッドまで近づくと、パイプ椅子に腰かけた。

「……髪、伸びたね、マー君。」

「まあな。三週間ぐらい眠ってたらしいからな。髪も伸びるよ。」

 なぜだろう、あきが若干落ち込み気味なのが、僕は気になった。

「私ね、黒い渦に飲まれた後、ずっと気を失ってたの。それで次に目を開けたら、現実に戻ってて、正直追い付いてないんだ。急展開過ぎてさ。だから、何があったか教えてくれない?」

 あきは少し寂し気にそう言った。

 僕はあきの要望で、彼女が呑み込まれた後の、沢山あった場面を余すとこなく話した。

「アツ君に会ったんだ……。」

「ああ。でも僕の中では、全部終わったと思ってるんだ。色んな話が出来て、心の内をさらけ出してさ。」

『アツと二度と会えない』

 それを思い出すと、胸が締め付けられるような気分に、僕はなった。

 しかし僕の中ではもう割り切って考えていた。

 それは、後悔を現実世界に引っ張らないと、僕の心の中で決めた事だったからである。

「だからもう、アツの話でへこむのはおしまい。これからは楽しい思い出話として、皆と共有したいんだ。」

「そっか、でも私にはもう少し時間が掛かりそう……。やっぱり、渦に飲み込まれる直前の、マー君の表情が頭から離れないから……。」

 恐らくあきのトラウマとして、僕のあの顔が刻まれているのだろう。

 彼女は僕の顔を、嫌な物を見るような目で見ていた。それが何よりの証拠だと、僕は思った。

 僕はあの時が、一番辛い時間だった。

 それを間近で感じていたあきは、相当の精神的ダメージを負っているのだろう。

「ごめんな、僕が弱いばっかりに。」

「ううん、違うの。マー君の反応は最もだと思うし、やっぱり親友を亡くしたショックが大きいのは、当たり前だから。……ただ、あれだけもがき苦しむマー君の顔が、脳裏に焼き付いて離れないの。」

 あきの顔からは病的な匂いがした。精神的に参っているのではないかと、僕は疑っていた。

あきの記憶は、渦に飲み込まれる時を最後に、完全に遮断されていた。

 再び目が覚めて、記憶の整理もつかないまま、トラウマの原因を作った張本人を目の前にしたら、やはり怖いのは当たり前だと、僕は思う。

 その証拠に、一回も目が合っていない。僕の顔を見るのが怖い決定的な確証だった。

「とりあえず、僕は病室に戻るね。行けそうだったら、僕の部屋来てよ。……じゃあね。」

 僕は、若干のショックを抱いた。

 しかし、それは致し方ない事だから、他の感情が湧いてくることは無かった。

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